
以前から声をかけて頂いていた、プロジェクトが動き始めた。当該敷地は旧造成地で、前面道路から3m程の高低差があり、前面道路側には見晴らしの良い眺望を獲得できる、また前面道路の反対側は広大な農園となっている、個性のある敷地である。土地の影響により建物の内容の大半が決まって行くのであるが、そんな設計の第一歩である土地の選定は、その家族のライフスタイルに合う建物に出来るかが、重要なポイントとなってくる。土地で全てが決定する訳ではないが、計画には重要な項目の必要である。
設計の相談に来られるオーナーさんと、良く一緒に土地探しを行っているが、最初にオーナーさんの趣味趣向を感じ取る事が出来るのが土地選定である。そのオーナーさんが何を求めているのか、何を諦める事が出来るのか。予算が限られている中での選択となるので、取捨選択は必ず求められる。
最近は新しく区画された宅地造成地で、過去にその土地がどのような場所だったのか、歴史の流れを切り離した、真新な区画の綺麗な土地が好まれる事が多い。その理由としては、その一団が同年代の家族で住む事が予想される事から来るコミュニケーションの件や、イメージとしての防犯の面を考えての選択だと思われるが、沢山の住宅設計に携わって来たこちら側の意見としては、その印象はただのイメージにしか過ぎない事が多々ある。
設計に携わった住宅が竣工して、家に招いて頂く事も多いので、その時に、当時の土地選定や住宅の設計で考えていた事や、打ち合わせであった事などを話題にしながら色々と振り返ると、ただの固定観念だったとの意見を多く聞く。設計者としては、クライアントの凝り固まった考えを解きほぐしながら、近い未来だけの事ではなく、遠い未来も見据えながら、多角的に提案していかなければならない。そんな事もあって、設計のプレゼンはこちらから、一方的にアイディアを提案して選択して頂く事はせずに、共に考えると言うスタンスを大切に、打ち合わせを行っている。



クライアントが、今からご自身の家づくりを考えて行くにあたり、情報量の少ない中での好みや趣向を元に、「こうして欲しい」「ああして欲しい」と要望がでるが、なぜそれが必要なのか、など考えを深める時間としての基本設計を設けている。その為、多数の提案を行う事を心がけており、ある一定の数以上を提案して、A案はこのような良いところがある、B案はここが魅力的だなど、議論を深めるうちにその家族が何を求めているのかも少しずつ見えてくる。



出来るだけ違ったタイプの提案を数多く出す事は、設計者としてはかなり苦労するが、建築家との家づくりの価値として、大切にして行きたいポイントである。クライアントからの最初の要望は、「広い土間が欲しい」「収納力を増やしたい」などと言った、淡泊な単語で語られる事が多いが、設計の終盤になって行くと、大学の教授になったかのような、要求をされる事も多々あるし、当初に欲しがっていた、要望が消えて違う要望になる事もある。
そのような設計の経験から、家づくりにはクライアント側の成長も欠かせないと考えている。
始まったばかりの計画ではあるが、コミュニケーションを深めて家づくりを体験する事を大切にしてもらいながら、基本設計を進めて行きたい。どんな住宅になるのか、とても楽しみである。