
地方創生などと数年前から聞く機会が多いが、地方において新たな価値を創生する事は、かなり難しい事であると、大半の人が感じていると思う。日本には無数の町村がある中で、有名な観光地や、名産などがあればまだしも、何もアピールするものが無いと、嘆く声はよく聞く。ましてや衰退を受け入れている町や村も多い。そんな中、今後の日本のグランドデザインが、どのように変遷して行くかを、私たちは目撃する事となる。
暮らしの質を向上させる為に、今までにメディアなどで沸々と述べられてきた、考えを取り入れて検討してみたい。昨今の技術革新のおかげで、仕事がどこでも行える時代となっている。また都市での生活は、コストに対する高価が地方と比べると、幅が狭まって来ていると感じる。しかしながら、都市にも軸足を置いておきたい。その事を加味すると、暮らしをピポットする方が、現代人にとって豊かな暮らしになるのではないだろうか。

この考えが実際に動き出す時期は、自動運転が境となるだろう。軸足の住まいから車で1時間から2時間くらいの、今でいう「別荘」に滞在する時間が増えるのではないだろうか。決して、別荘を買う流れが主流になるとは思えないが、例えば、両親の高齢化による介護の帰省や、実家やふるさとがある地域を管理する機会は今より増える。そこで移動に関してのストレスの軽減や、仕事を行う場所の自由度が上がる事など、それぞれの要因が重なり合って、土地に縛られている現在のリードが、今よりも伸びる事は想像ができる。
技術革新から影響から意識するようになった、価値の多様性と深度が、人々の生活スタイルに大きな影響を与え、その形の現れとして都市部はもちろん、地方までも何らかの変容を求められる。

今回は、どの地域にも必ず存在する、今は使われていない建物、所有者不明の建物を利用して、現代人の多様性を形に表し、空間を形成する事を目的とした。空き家プロジェクトの提案である。
都市における空き家は近年、老朽化に伴う崩落や害獣の巣窟となりかねないと、危険視されてきたが、空き家における大半が個人住宅であることから、所有権の問題で手が出せない状態となっており、更には所有者不明や所有者との連絡手段が無い物件も多い。そのような物件の対処としては、法律の改正を待つ次第であるが、今回注目したい空き家は、建物を解体する費用が無く、ただ時を過ごしている建物である。現在でもそのような、維持管理に耐え忍んでいる所有者は多くいて、その物件で何か出来ないかを考えたい。
一概に空き家と言っても、このように瀬戸大橋を一望できる好立地な場所にも空き家は存在している。この場所であれば、都会とは2時間程で行き来する事が可能で、夏の避暑地として数ヶ月の滞在にも使えるし、休日だけこちらに移動して過ごす事も可能である。


そのような事柄を考える事は、現代の建築家像と過去の建築家像は少しずつ移り変わっているように思う。建築家の職能として、建物の設計が一般的であるが、今後の建築家像を考えるにあたって、このような地方の埋もれた潜在価値を見つけ、何らかの関係と繋げ可能性を広げる仕事は求められる。要するに建築家は建築家の仕事のもう一層外側にある、領域の設計が必要なのである。それはモノの設計ではなく、コトの設計とも言える。建築家はモノを設計して、人々の行為を誘発してきた。その逆のベクトルが今の時代には必要となる。モノの設計の前にコトの設計をして、モノの設計を行って、コトを生む。
例えば、建築家として働いている中で、「家を建てたい」とクライアントから以来が来るが、家を建てたいと思い至るまでの流れが、設計の可能性の半分が決まるのである。この期間をデザインする事、初めから最後まで総合的なデザインが必要である。 地方創生に対して建築家としての立場のから見た答えとして、地方の潜在価値を見つけ出し創生する為に、上記のような意識が広がれば、建築家の社会貢献ができる領域が広がるのではないだろうか。