京都市東山区のあじき路地に面する、築120年の長屋の改修工事。京都で最も有名な路地の一つとしてあげられる、あじき路地は頻繁にテレビや雑誌の撮影や観光客が訪れる場所である。路地内には、当時の暮らしに密接な関係があった、井戸やお地蔵さんなどが今も残されており、そこに和風建築の長屋が軒を連ねている。また京都の住まい方の伝統でもある、職住一体として暮らす、若手作家が多く居住しており、活気に満ちあふれた路地でもある。その長屋のひと部屋を、私の事務所兼住居とする改修工事である。
時間を取り込む設計手法
東山区は京都市の中でも数多く路地や辻子が点在し、その道から紐づくような形で、住居が形成され、町となっている。そんな町から住居の暮らしが地続きに繫がる京都の町並みを、設計者としての一方だけの考え方だけで形づくる事は、その繋がりを分断してしまう事となる。歴史や行為(風習・習慣)を汲み取り、設計に加味する事で新たな空間の提案として時代を引き継がなければならない。その場所であった出来事を、設計の一つの造形言語として注視し思考を行う事は、時間を取り込む設計といえる。
時間を概念とした既往設計では、借景やシークエンスなど時間を対面的な価値と捉え、自身とは別の存在を認知する技法として時間の概念を、設計に取り込んでいた。
新しい設計手法として、その時間の捉え方の関係性を、対面的では無く内包的に時間という概念を備える空間を設計する事によって、歴史や行為(風習・習慣)町から住居の暮らしが地続きとなる事を目指す。
京都らしい新たな改修方法の提案
歴代この家屋に住まわれた、居住者は1家族4世帯と単身者の2家族だけであった。あじき路地内にある、各住居をそれぞれ調査したところ。当該家屋とその他の家屋では、家族数が著しく少ない希な物件でもあった。(世帯数と住まわれていた年数は、他の家屋と同等)家族数が少ないということは、そこに住んでいた生活者の、住宅への個性の転写が少ない事となるが、反対にオリジナルの住居形態も色濃く残っているとも言える。
住まい者の痕跡をたどり、歴史が積み重なり暮らしから醸成で出来た住居内のパーツや空間を汎用し、今後の住まいとして必要とされる内容に改良していく。その部分によっては、竣工当初に戻す事や、前住居者が商売を行う為に必要だった家具を解体して、その材料を壁面に使用したりなど、歴史が幾つもの層となり硬直した地盤を掘り起こすように、組み替えたり戻したりする事で、時代をぶつ切りとしない、歴史の流れを演出していく。従来の設計の、現時点を切り取り新しく再構築する方法ではなく。過去の住まい者の痕跡を活かす設計手法は、過去から未来へと繋ぐ役割を果たす。










所在地:京都市東山区
構造規:木造 地上2階建て
延床面積:45.00㎡
竣工:2018年4月
施工:原田工務店株式会社